不思議なことしか起こらない映画だ。まるで、フジテレビのドラマシリーズ『世にも奇妙な物語』を観ているよう。怖いというよりは、ずっと不気味で不穏な雰囲気に浸される。独特な世界観や風景のモチーフについても、考察してみたい。
あらすじ
不動産屋に紹介された住宅地から抜け出せなくなったカップルの運命を描いたサスペンススリラー。新居を探すトムとジェマのカップルは、ふと偶然に足を踏み入れた不動産屋で、全く同じ家が建ち並ぶ住宅地「Yonder」を紹介される。軽い気持ちの内見を終えて帰ろうとすると、すぐ近くにいたはずの不動産屋の姿が見突如消える。2人で自力で帰路につこうと車を走らせるが、周囲の景色は一向に変わらない。住宅地から抜け出せなくなり戸惑う彼らのもとに、段ボール箱が届く。中には誰の子かわからない赤ん坊が入っており、2人は訳も分からないまま世話をすることに。追い詰められた2人の精神は次第に崩壊していき…
作品情報
公開日
2021年3月12日
上映時間
98分
原題
Vivarium
監督・キャスト
監督:ロルカン・フィネガン
主要キャスト: イモージェン・プーツ、ジェシー・アイゼンバーグ、ジョナサン・アリス、セナン・ジェニングス、エアンナ・ハードウィック
受賞歴
イモージェン・プーツ:第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭 最優秀女優賞受賞
予告編
公式サイト
https://vivarium.jp/
感想レビュー

ストーリー展開は予測不能であった。斜め上の方向から意外な転換が降ってくる。新興住宅地から出られなくなったカップルに訪れるハプニングは、絶妙にシュールで不快だ。気味の悪い童話を読むようでもある。
登場人物は少なく、そのうちの1人がただならぬ異常さを見せてくるので心が休まる暇が無い。おそらく、新鋭ロルカン・フィネガン監督の狙い通りといったところだろう。もっとも、あの年頃はあんな感じだよと世の母親に言われたら、それはそれで納得ではあるけれど。
出演キャストの演技は見どころ。ジェシー・アイゼンバーグは早口も封印して、いつもと違う印象だ。彼女役を演じたイモージェン・プーツが思いやりも絶叫も際立っており、その効果で退屈しないでいられた。
建物や空は、画家ルネ・マグリットの絵画をモチーフにした気配がある。ただただ陽光が明るい、物質だけが存在する光景である。ストーリーは作家フランツ・カフカの書いた、不意に異質な状況に置かれる人間の生活に近い。目的地にたどり着けない『城』にも重なった。
まとめ

タイトルの『ビバリウム』は元々、生き物の住む環境を再現した空間をさすものだ。観葉植物や苔や魚や爬虫類などを配して作られた、その中だけで生態系が完成された水槽を見かけたことがありませんか? そうして鑑賞用になぞらえてこのカップルを眺めると意味合いが深くなる。冒頭のカッコウの托卵も深堀りするとゾワゾワできるかもしれない。(※下記リンクの『編集長のひとりごと』に詳しいのでご一読いただければ) ちなみに、あの大人気作家スティーブン・キングは本作を気に入ったようだ。ただし、「気に入らなくても私を責めないでくれ」とのことである。
(文:キタコ)