ベトナム戦争で散った命を称えたいという思いが伝わる、人間ドラマ。ベトナム帰還兵は不遇に沈むことも多く、こういう作品の存在意義は深い。名優たちの競演と監督の思い、そして本作のキーパーソン、ピッツェンバーガー兵士の任務についても触れていきたい。
あらすじ
『キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ』シリーズのセバスチャン・スタンが主演を務め、ベトナム戦争で多くの兵士の命を救った実在の米空軍兵ウィリアム・H・ピッツェンバーガーの知られざる真実を描く社会派ドラマ。1999年、アメリカ。空軍省のハフマンは、30年以上も請願されてきたある兵士の名誉勲章授与について調査を開始する。1966年、空軍落下傘救助隊のピッツェンバーガーはベトナムで敵の奇襲を受けて孤立した陸軍中隊の救助に向かうが、激戦のためヘリが降下できず、その身ひとつで地上へ降りて救出活動にあたる。しかし彼自身は銃弾に倒れ、帰らぬ人となる。ハフマンは当時ピッツェンバーガーに救助された退役軍人たちから証言を集めるうちに、彼の名誉勲章授与を阻み続けた陰謀を知ることに…。共演にはクリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソンら豪華キャストが集結。名優ピーター・フォンダの遺作となった。監督・脚本は『ファントム 開戦前夜』『ロンリーハート』のトッド・ロビンソン。
作品情報
公開日
2021年3月5日
上映時間
116分
原題
The Last Full Measure
監督・キャスト
監督:トッド・ロビンソン
主要キャスト: セバスチャン・スタン、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソン、エイミー・マディガン
予告編
公式サイト
https://thelastfullmeasure.ayapro.ne.jp/
感想レビュー

証言を集めて一人の人物を調査していくストーリーはミステリーのようでもあり、徐々に見えてくる本人への興味が高まる。そうして現れるピッツェンバーガー兵士の行動には、神々しさのあまり手を合わせたくなった。これが実話だということに衝撃を受ける。
名優がまさに集結しており、エド・ハリスに至っては妻であるエイミー・マディガンも共演している。本作の後に亡くなったピーター・フォンダの姿は、特に記憶に残るだろう。それぞれの出番には限りがあるが、皆、本気の演技。いちいち上手い。ただ、その結果、彼らの芝居が素晴らしすぎて、初主演であるセバスチャン・スタンの影が薄くなってしまったかもしれない。ベテランの力量が眩しい。
ピッツェンバーガー兵士はかなりデキる男なのだが、空軍落下傘救助隊(パラレスキュー員)は衛生兵と同等以上の医療知識を持ち、パラシュート降下やスキューバ潜水、特殊作戦のスキルを身に付けて人命救助にあたる特殊救難員なのだそう。必要とあればヘリコプターから地上に降り、被救難者の救助作業を行うのが任務である。それほど高いスキルと人間力を持った人物が戦火にさらされる意味を、改めて考えさせられる。
まとめ

名誉を与えられるまでに30年かかった軍人の映画化までに、トッド・ロビンソン監督は18年を要した。エンドロールに製作者の名前が多いのは、映画化の資金をかき集めたからだ。米軍のベトナム撤退から今年で48年が経つ。構成の堅さも少々感じるが、戦後世代も増えたアメリカで作られた、軍人への、というよりも、戦地であっても変わらぬ人間性を問う情熱には頭が下がる。終盤にかけて、実にアメリカらしい光景には胸が熱くなった。知っておきたい史実である。
(文:キタコ)