FHの映画の小窓 第3回『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』

あらすじ

Courtesy of Amazon Studios

ドラマーのルーベンはある日とつぜん重度の難聴に陥り、ほぼ全ての聴覚を失った。バンドメンバーで恋人のルーは、取り乱すルーベンにろう者の支援グループへの参加を勧める。それまでの貧しいながらも幸せな生活を諦めきれないルーベンだったが、ルーの悲痛な決断に応える為にろう者のコミュニティーで自立の道を探ることにする。支援グループの思慮深いリーダー・ジョーの助けを受けて、ろう者としての自分に順応していくルーベンだったが――。

感想レビュー

泣いた。この映画は現代の臨場感のある音響で、耳が聞こえなくなるのがどういうことなのかを映画の序盤から観客に体験させるのだ。ルーベンが支援グループに参加するまでの不安感・絶望感の恐ろしさたるや……。

そういう体験アトラクション的な側面がある一方、この映画は考えさせられるドラマでもある。支援グループのジョーは賢者のような佇まいでルーベンにろう者としての生き方を教えてくれる。一方で時々、不可解にルーベンをたしなめたり、理解のできない提案をする。
ある日、家の補修をしていたルーベンに、「ここでは何も直す必要はない」と神妙な面持ちでジョーは告げる。前日の夜、恋人のルーからのメールを読んで希望をもらったルーベンの前向きな気持ちを示すような行動だったのだが、ジョーは「君は何もしなくていい。部屋を貸し与えるから、毎朝何でも良いから文字を書きなさい」と、ルーベンにとっては苦行のように思えるルーチンを変わりに与えた。ジョーはそれを神の王国と呼ぶ。

徐々にろう者のコミュニティに溶け込んでいくルーベンだったが、ジョーの「今後もここで働く道を考えてみてくれないか」という誘いをきっかけにして、ろう者として生きるか、人工内耳の手術を受けてかつての人生を取り戻すか決断をすることになる。“サウンド・オブ・メタル”とは人工内耳を通した音のことだ。

人工内耳の手術を受ける人は日本だけでも年間1000人はいるらしく、正直言ってこの映画が与える人工内耳に対する印象がどれほど適切なものなのかという点には不安を感じる。人間が同じ色を見ているようで見てないのと同じく、他人の聞こえ方は当人以外には分からないし、人工内耳を通した音に関しても同じだろう。ただ手術後も根気のいるリハビリが必要な治療法であり、失ったものが元通りになることはないのは確かだ。
聴覚に限らずもう取り戻せない絶望に対する人生の処方箋の一つをジョーはルーベンに与えたのだ。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(4.0)
考えさせられる
(4.0)
笑える
(2.0)
泣ける
(4.5)
総合評価
(4.5)

作品データ

Courtesy of Amazon Studios

原題/Sound of Metal

制作年/2020年

制作国/アメリカ

時間/120分

ジャンル/ドラマ

受賞歴/

原作/

配給/アマゾン・スタジオズ

監督/ダリウス・マーダー

出演者/リズ・アーメッド、オリヴィア・クック、ポール・レイシー、ローレン・リドロフ、マチュー・アマルリック

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