ほとんどのシーンがPCのデスクトップ上で展開されるという、映画の固定観念に囚われない映画であり、PCに慣れ親しんだ現代人なら素晴らしいストーリーテリングを味わえる。
本記事ではある種のインディーゲーマーが『search/サーチ』を観た時に気になるかもしれない、ゲームからの影響についても触れた。
あらすじ
16歳の女子高生マーゴット・キムがある夜を境に失踪した。事態の深刻さに気づいたマーゴットの父デビッドは警察に通報し、行方不明事件としての捜査が始まる。担当刑事からの要請もあり、デビッドは自宅に残されたマーゴットのPCを使って彼女のメールボックスやSNSにアクセスする。マーゴットの友人全てに必死に連絡を取り情報を集めるデビッドだったが、捜査はたびたび暗礁に乗り上げる。デビッドはマーゴットのSNSやチャット履歴から今まで知らなかった娘の姿を発見し、自分の不甲斐なさに打ちのめされていく……。
作品情報
公開日
2018年8月21日(米国公開)
2018年10月26日(日本公開)
上映時間
102分
監督・キャスト
監督:アニーシュ・チャガンティ
主要キャスト: ジョン・チョー、ミシェル・ラー、ジョセフ・リー、デブラ・メッシング
予告編
公式サイト
映画『search/サーチ』 _ オフィシャルサイト_ ソニー・ピクチャーズ _ ブルーレイ&DVD発売
感想レビュー

『search/サーチ』は時代に即したスタイルの、非常によく作り込まれたサスペンス・スリラーだった。興味深いことに劇場のスクリーンではなく自宅のPCモニターで観るのが最も臨場感を感じられる映画でもある。”すべてPC画面上で展開していく” と公式サイトなどで紹介されているように、劇中のほとんどのシーンで、WindowsやMacのデスクトップ上に展開されたビデオクリップやビデオ通話アプリケーションのウィンドウを通して、登場人物たちの様子や表情を観ていくことになる。
行方不明者のPCに残されたSNSやWebサイトの履歴やログイン情報を元に、娘の失踪の経緯や直前の行動の動機などを探っていくというのは、現代の行方不明モノのストーリーとしてはオーソドックスな手順ではあるが、その過程を現代人にとって身近なPCデスクトップ上で徹底的に見せるというアイディアを本作は見事に映画として結実させている。何かしらのインターフェースをテーマに撮影された映画はこれまでもあったとは思うが、画面に映る内容の全てが作中の電子機器のインターフェースやメディアを介している、という構造を貫いて高品質な映画体験として成立させた記録的な映画だと個人的には思う。
“映像” の枠組みそのものに何かしらの意味をもたせようとする試みは映画の歴史の中でもこれまで行われてきたことではあるが、『search/サーチ』を観ていて自分が感じたのはコンピューターゲームの文脈であり、特に『Gone Home』や『Her Story』といった芸術的と評しても差し支えないある種のインディーゲームを思い出した。
実際、『Gone Home』に関しては、本作の脚本・制作を努めたセヴ・オハニアンがあるインタビューにおいてその影響を語っている。『Gone Home』というゲームは、家族が失踪してもぬけの殻になった実家を探索しながらそこで起きたことや、それまで知らなかった家族の本当の姿を発見していくという筋立ての、一人称視点のアドベンチャーゲームであり、『search/サーチ』においてマーゴットの本音を発見していく構造に色濃く反映されている。
『Her Story』に関してはどうかというと、これは特に監督や脚本からの言及は見つけられないのだが、『Her Story』を始めとしたある種のゲームはPCのデスクトップを模したインターフェースをゲーム内で実体化させていて、『search/サーチ』の特徴的な画面づくりはそれらの発想とよく似ている。身近なインターフェースをストーリーテリングのツールにしているという点で、少なくとも同じ発想から生まれた兄弟のような関係と言えるだろうか。
電子機器やソフトウェアのインターフェースを模した画面づくりというのは、プレイヤーや視聴者の没入感を高め、ある種の快感を与えることができる。PC画面と瓜二つのビジュアルのゲームをフルスクリーンでモニター全体に表示したとき、ゲーム内の世界とプレイヤーの現実は一つに重なるのだ。ゲーム内のチャットを開き、架空の相手の ”入力中…” を眺めながら待つ時間も現実になる。『search/サーチ』においても、主人公であるデビッドのテキストチャットのやり取りが印象的で、劇中何度か彼がメッセージを書き直すシーンを目にするだろう。
デビッドの顔が画面に写っていなくとも、そこでは視聴者はデビッドの心境を手にとるように理解することができるのだ。
まとめ
特定のインターフェースを模したこのジャンルをなんと呼べば良いのか分からないが、ともかく、『search/サーチ』はゲーム、映画を問わずこの種の作品の中で最も高品質な作品の一つであるといえる。現代人にとっての現実とはローカルやオンラインを問わず電子データ上にまで拡張しているわけで、人を選ぶかもしれないが、この映画に強くリアリティを感じる人は現代では少なくないだろう。
ちなみに本作の画面に映し出されているものは、監督と脚本家によって全てが入念に作り込まれていて、よくよく探すとメインストーリーとはあまり関係のないサブストーリーやイースターエッグなどを発見できるらしい。興味がある人は二度目の視聴でじっくり探してみると良いかもしれない。
(文:フレームホッパー)