同名漫画を原作とした映画であり、おおよそ殆どの日本人が何らかの形で経験する認知症をテーマにした家族の物語。認知症あるあるから、認知症によるコミュニケーション不全に対する一つの解答まで、ユーモアありドラマありの為になる作品だった。
あらすじ

岡野雄一は団塊の世代でバツイチ。漫画家で、ミュージシャンで、その実冴えないサラリーマン。母・みつえ、息子・まさきとの三人で暮らしていたが、みつえに認知症の症状が見え始め、悩んだ末にグループホームに入れることにする。ホームに定期的に通い、母と叔母たちとの面会を手配したりと骨を折る雄一だったが、今まで息子のハゲ頭だけは忘れなかった母が一時的にそれすら認識できなくなったことにはショックを受けてしまう。一方のみつえは認知症が進行したある時期から、すでに亡くなった大切な人たちが自分に会いに来てくれたと嬉しそうに語るようになっていた。
作品情報
公開日
2013年11月9日
上映時間
113分
監督・キャスト
監督:森崎東
主要キャスト: 岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮、竹中直人、大和田健介、松本若菜、原田知世、宇崎竜童、温水洋一
予告編
感想レビュー

長寿化の裏表である認知症という症状、誰もが直面しうる問題への心構えと赦しを与えてくれるような映画だった。また認知症あるあるの宝庫でもあり、悲しみにくれるようなシーンももちろんあるのだが、認知症の家族を持った経験のある人でもユーモアある描き方にくすりと笑えて、癒やしをもらえる映画でもある。
筆者も祖母二人と叔母一人が認知症になった姿を見てきたので、本作を観るのが辛い側面もあり、癒やされる側面もありといった感じだった。環境が許すのであれば認知症患者の家族はなるべく負担を軽減しつつ認知症患者の当人の幸せについて考えられればよいのだろうけれど、もちろん全ての人ができるわけではないだろうし難しい問題だろう。ただそれでもネガティブな意味での諦観に囚われまいと、認知症の母に向き合う本作の主人公・雄一の姿には励まされるものがある。
本作では現代を舞台にした家族の風景や介護のパートと、母・みつえの過去の記憶のパートが交互に描かれていくが、主人公でもある原作者が、漫画家であるがゆえに、母親の人生・歴史を掘り下げていることが、作品的にも認知症ケア的にも素晴らしいと感じた。
絶えず時代を行きつ戻りつするみつえの意識をなぞるように、みつえの人生の苦難や喜びを描いた末のラストシーンは感動的であり、同時に我々が、徐々にほどけていく認知症の家族をいかにして人として結び直すかを示してくれている。
まとめ
『ペコロスの母に会いに行く』は赤木春恵の映画としての遺作となった作品でもあるが、本作で”世界最高齢での映画主演女優”としてギネス世界記録に認定され話題になったとのことで、作品のテーマと併せて意義深いことだと思う。彼女の演じるコミカルで愛情深い母・みつえが認知症によって変わっていく様子は辛くもあるが、映画の最後でたどり着く彼女の笑顔は多くの認知症患者の家族にある種の癒やしや、今一度認知症の捉え方を考える機会を与えたのではないだろうか。
(文:フレームホッパー)