現在開催中のイタリア映画祭2021(2021/5/13~6/13・6/17~7/18はオンライン上映)で出会える実話ベースの意欲作。クラウディオ・ノーチェ監督の家族の体験に基づいた、罪の所在を問う物語です。作品に込められた監督のメッセージを考えてみました。
あらすじ
1976年のローマ。10歳のヴァレリオは、警察幹部の父が自宅前でテロリストに襲撃されるのを目の当たりにしてしまう。壮絶な現場の記憶がぬぐえず心に傷を負ったヴァレリオだったが、ある日、素性不明の不思議な少年クリスティアンと出会い、人生が変わっていく。
作品データ
原題/Padrenostro
制作年/2020年
制作国/イタリア
時間/121分
ジャンル/サスペンス
受賞歴/ヴェネチア国際映画祭最優秀男優賞(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)
監督/クラウディオ・ノーチェ
出演キャスト/ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、バルバラ・ロンキ、マテイァ・ガラチ
イタリア映画祭公式サイト/http://www.asahi.com/italia/2021/
感想レビュー
本人も気づかずにPTSD状態に陥っている少年ヴァレリオの目線で進んでいくストーリーは、少々、核心を把握するまでに戸惑うかもしれません。見知らぬ少年クリスティアンとの友情を育むうちに心がほぐれていく様子は温かみに溢れているのですが、終始、印象が揺れ動くのです。
イタリアの海辺の陽光の下で描かれる、ファンタジーのような捉えどころのなさは本作の魅力でもあり、クセモノでもありました。あらすじを先に読んでいなければ、銃撃された父親がマフィアなのか、何らかの有力者なのかも把握しにくかったのは惜しまれます。少年クリスティアンの意味するところがもう少し早めに明らかになっていたなら、ヴァレリオとの交流や戸惑いがより際立ったことでしょう。
それでいて説得力があるのは、実体験を経た結末だからに違いありません。物語のベースとなったのは、クラウディオ・ノーチェ監督が2歳の頃、当時11歳だった兄が自宅のバルコニーから父親への攻撃を目撃したエピソードだそう。本作のテーマは、罪はどこにあるのか、赦しとは何か、犠牲者は誰なのかといった深いもの。冒頭とラストのシークエンスに、監督の優しさが滲み出します。
まとめ
金髪碧眼のヴァレリオが美しく、子役とは思えない演技力です。そのため、少年2人の夏の思い出をリアルタイムで傍観しているような時間が流れていきます。その穏やかさが変容し始めてからがスリリング。タイトルも効いていて、父親を演じたピエルフランチェスコ・ファヴィーノの演技も見どころ。犯罪の裏にある各人の事情は様々。不公平な環境が生み出したであろうテロリズムに対する、一つの、とても公平な答えのような作品です。
(文:キタコ)