FHの映画の小窓 第4回『あの夜、マイアミで』

あらすじ

1964年2月25日の夜、プロボクサーのカシアス・クレイ(のちのモハメド・アリ)、ソウル歌手のサム・クック、アメフト選手のジム・ブラウン、そして人権活動家のマルコムXの四人がマイアミの小さいなホテルの部屋に集まった。その当日にカシアスがヘビー級世界チャンピオンになったことを祝うためだった。
賑やかなパーティーを想像していたサムとジムだったが、そこには四人しかおらず、部屋のホストであるマルコムXは酒ではなくバニラアイスを提供するというただならぬ雰囲気。やがてマルコムとカシアスから、カシアスのイスラム教への改宗とネーション・オブ・イスラムへの参加を知らされる。1950年代からの公民権運動が依然続く歴史の大きなうねりの中で、四人の時代の寵児が語り合う一夜の会話劇。

感想レビュー

Courtesy of Amazon Studios

事実とフィクションが混ざり合い、歴史と現在が接続される味わい深い映画だった。
この歴史的な有名人たちが一堂に会した集まりは実際にあったことらしい。歴史的事実として実際にカシアス・クレイの試合会場にマルコムX、サム・クック、ジム・ブラウンの三人はいて、友人としてカシアスの勝利を祝うためにその後ホテルに集まった。また映画の他の部分で描かれる四人の過去や、その後のことも、多少の違いはあっても大体は実際にあったことが元になっている。
一方で、この夜の四人の会話の内容こそは、原作者で脚本家のケンプ・パワーズの創作であり、「激動の公民権運動の時代に四人のキープレイヤーが集まった一夜があった」という事実から、歴史ファンも唸るような想像の翼を広げて作り出されたものだ。単なる記録を生き生きとした情景として蘇らせていて、”限定された状況での会話劇”という独特の熱気を持たせやすいフォーマットと非常にマッチしていると思う。

全体の雰囲気としては、この当時すでに死を予感していたであろうマルコムXの不穏な気配がベースにあるものの、サム・クックのポジティブさと音楽がそれを緩和してくれていて、破天荒を演じるカシアス、何事も冷静に受け止めるジム、それぞれの登場人物たちのアンサンブルが心地よかった。

この映画を楽しむ上で多少の予備知識はあったほうが良いとは思うが、公民権運動という歴史的なワードはなんとなく知っていても、登場人物それぞれの背景などにはあまり詳しくなかった自分にとっては知るきっかけになる映画になった。彼らそれぞれの立場を反映した会話劇は、それがフィクションだとしても、公民権運動の切実さや当時の雰囲気をわかりやすく伝えてくれたと思う。
改めて思うのは、歴史だなんだと過去に追いやるような言い方をしてしまいがちだが、実際にはこれがほんの57年前のことだということだ。他のアカデミー賞候補作も含め、今、人種差別問題に関係する映画が多く世に出てきているのは、BLM運動が記憶に新しい現代まで地続きの問題であると認識させるという点で意義深い潮流だと思う。

映画の評価
ハラハラワクワク
(3.5)
ドキドキ
(3.0)
考えさせられる
(4.5)
笑える
(3.0)
泣ける
(4.0)
総合評価
(4.0)

作品データ

原題/One Night in Miami

制作年/2020年

制作国/アメリカ

時間/114分

ジャンル/ドラマ

受賞歴/

原作/ケンプ・パワーズ『One Night in Miami』

配給/アマゾン・スタジオズ

監督/レジーナ・キング

出演者/キングズリー・ベン=アディル、イーライ・ゴリー、オルディス・ホッジ、レスリー・オドム・Jr

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