マウロ・マンチーニ監督の長編第1作。
ユダヤ人とネオナチの予期せぬ関わり合いを通して憎しみの連鎖や償いのありかた、現代のヨーロッパが抱える一面を描き出し、問題提起した一作。
2020年第77回ヴェネチア国際映画祭の批評家週間でFrancesco Pasinetti Awardを受賞。イタリア国内の映画賞も多数受賞している。
あらすじ
トリエステに暮らす裕福なユダヤ人外科医のセグレは、カヤックで運動中に車の交通事故を目撃する。
瀕死の状態の運転手アントニオを助けようとするが、胸に彫られたナチスのタトゥーに気づき、救いの手を止めてしまう。
セグレの父親はナチスドイツによるホロコーストの生き残りだった。
アントニオは結局助からず、この世を去る。
罪悪感にとらわれたセグレは遺族を突き止め、アントニオの長女ミネルヴィーニを家政婦に雇う。彼女は昼夜に渡って働き通し、家計を支えていた。
アントニオの息子マルチェロもネオナチズムの信奉者で、ユダヤ人の元で姉が働きだしたことで不満を募らせていく。
作品情報
上映時間
95分
監督・キャスト
監督/マウロ・マンチーニ
キャスト/アレッサンドロ・ガスマン、サラ・セッラヨッコ
感想・レビュー
ヨーロッパで現在、その勢力を拡大している極右勢力。その中でもシンボリックな存在なのがネオナチと呼ばれるで集団で、スキンヘッドとハーケンクロイツの刺青がトレードマークです。
ヨーロッパでの80年近く前のことでありながら、ナチスの蛮行の影は今なお色濃く、シンボルの使用や、ヒットラーの写真や資料の収集などは摘発の対象になっているほどです。
ユダヤのこと、ネオナチズムのこと、ヨーロッパにおける移民への不満などなど、そういったことを多少知っておくとこの映画の描いている事柄についていより深く知ることができるのではないかと思います。
役者たちの演技力もあるのでしょうが、マウロ・マンチーニ監督はこれが初長編作品とは思えない、完成度の高い作品を仕上げました。過渡な説明セリフはなく、何気ない仕草や物事の見せ方で繊細な物語を創り上げてました。
クライマックスのある出来事で非常に象徴的かつ大胆な展開を挿入してきて、おおと唸らされます。
まとめ
イタリアでユダヤ人とネオナチ=ナチズムを描くというのはちょっと意外な視点のようですが、時代背景を調べると、第二次世界大戦中に同盟国だったこともあってイタリアの国内でもナチスの影響下によるユダヤ人への迫害が行われていました。
さらにさらに歴史を遡ると13世紀ごろからユダヤ人への迫害、隔離政策がすすめられた時代があり、この時にユダヤ人居住地を示すゲットー(GHETTO)の語源となる(GETTO)という言葉が生まれています。
また、現代においても極右政党の一部にアドルフ・ヒトラーへの信仰ともとれる行動をしている一派がいて多数の証拠品を押収したという事件がありました。
映画「憎むなかれ」はそれだけでは、こういったことを語り切っていませんが、日本に居てはなかなか伺い知ることのできないイタリアにおけるユダヤ人の歴史。ヨーロッパに拡がるネオナチズムと言った事柄の意外な繋がり知る好機と言える作品です。
見ておいてよかったです。
(文:村松健太郎)