移民国家アメリカに根付く『ミナリ』

リー・アイザック・チョン監督の半自伝的映画で、リアルな家族描写と、アメリカ人の心の原風景に通ずるストーリーや映像美が素晴らしい。
拙稿では移民の国アメリカならではの、ルーツの継承やアウトサイダーたちの物語として考察した。

あらすじ

1980年代アメリカ、韓国系移民のジェイコブとモニカの夫妻と子供たちの4人家族が南部のアーカンソー州へ引っ越してきた。夫ジェイコブは自身の夢である農業をビジネスとして成功させるつもりだったが、家族の安全と健康を一番に望む妻モニカにとっては、リスクを取る夫の決断や新生活は不安と不満を募らせるものだった。
子どもたちの面倒を見てもらうために韓国から呼び寄せたモニカの母スンジャは、その祖母らしくない風変わりさで下の息子デビッドを落胆させ、ジェイコブが畑仕事に雇ったポールはなにやら理解不能な言葉で神への信仰心を示す近所で有名な変人。そんな不安な滑り出しだった新生活も一旦は軌道に乗るものの、やはり問題は尽きず――。

作品情報

公開日
2021年3月19日

上映時間
116分

監督・キャスト
監督:リー・アイザック・チョン
主要キャスト: スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジュン、ウィル・パットン

予告編

公式サイト
映画『ミナリ』公式サイト

感想レビュー

映画を観る前は努力と勝利のアメリカンドリーム的な先入観があったが、実際に観てみると、個人的に西部劇が好きなこともありアメリカ開拓者たちのイメージが想起され、そこにある泥臭さこそが現代人の心に響く作品だと思った。
また主人公一家のキャラクターや俳優の演技、それぞれの関わり方が実在感を感じさせるもので、家族一丸になって一つの目的を成し遂げるような話ではなく、皆が自然体で別々の方向を向いた独立した存在でありながら、家族としての繋がりの中で自分のできることをしているという描き方が、この映画をいつの時代どこの国であっても共感を得て愛される作品にしていると思った。

アメリカの大地を舞台に畑作りから農業を始める話ということで、開拓者精神を感じずにはいられない作品であり、また現代においても白人と有色人種の間の壁が存在する中で、1980年代の韓国系移民をアメリカの原風景と接続させることで、(ネイティブアメリカンを除けば)アメリカにおいては誰もが移民であるという事実を思い出させてくれる作品でもある。
アメリカに移民としてやってきた人たちはみなそれぞれの国や民族といったルーツ・文化を持ち込んでいるわけだが、本作でもそれは描かれており、祖母スンジャが重要な役柄としてその多くを担っている。祖母スンジャと監督の分身でもある孫のデビッドの交流はルーツの継承を代表するような関係性であり、またその交流の中で映画のタイトルにもなっている”ミナリ”(韓国語で植物の「セリ」の意)の種が森の中に撒かれることも象徴的で、全ての移民に通ずる願いでもある。

この物語の発端である父ジェイコブの農業に目を向けると、畑作りは水源探しから始める本格派DIY精神がまず凄くて、ダウジングで水源を探し当てるという謎の男性の売り込みを断るシーンがあるのもまた輪をかけて面白い。こういう迷信商売は西部劇でもたまに出てくるのだが「俺たちの見たい昔のアメリカ」感を満たしてくれる。またジェイコブが農場の従業員として雇い入れるペンテコステ派の男性ポールは、なんとなく西部劇などに出てくる血縁関係はないけど”おじさん”と呼ばれる半分家族で半分他人な人物像を彷彿とさせる。
この男三人が映画の終盤で同じフレームに収まるシーンがあるのだが、これは、それぞれ全く違う生き方を抱えたアウトサイダーたちが一つ目的の為に集まりコミュニティを形成した風景だと個人的には思う。現代のアメリカの発端はアウトサイダーたちの集まりだと考えることもできるわけで、そういう意味でもこの映画はアメリカ人の原風景を的確に捉えているのではないだろうか。

映画の評価
ハラハラワクワク
(3.5)
ドキドキ
(3.0)
考えさせられる
(3.5)
笑える
(4.5)
泣ける
(4.5)
総合評価
(4.5)

まとめ

この記事では『ミナリ』の中に見いだせる一側面としてアメリカの原風景に着目したが、この映画の解像度・質感の高さや共感の多様性はなかなか語りきれない。国籍に関係なく、多くの人が『ミナリ』の家族の中に共感する部分を見つけ出すだろう。また大人でも子供でもスンジャとデビッドの祖母と孫の交流に、ある種の後悔と癒やしを感じる人も少なくないと思う。この映画が刺さるのはアメリカ人に限らない。

(文:フレーム・ホッパー)

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