あらすじ
ブルジョワ階級に属する90歳の祖母と同性愛者の孫息子の間で交わされる本音のやり取りは、ジェンダー、セクシュアリティ、アイデンティティの継承へと広がりを見せる。
クロスレビュー
90才のおばあちゃんがパワフルで本音トークも清々しい!孫のカミングアウトにも動じることなく、自分の過去の話にも変わらないテンポで語る姿がたくましい。学問を女性が学ぶ必要がないとされた時代にバリバリと働いて生き抜いてきた人の魂の強さから「さあ、明日がんばろう」そんな気持ちになれる一作。作品を語るうえで「性別役割分業」について考える場面が多くなる。各家庭、様々な事情を抱え、価値観は家庭によって様々だ。その「様々」を認めて生活していくのが現代風なのだとしたら、認められなかった時代よりずっと難しいことを求めているのかもしれない。ひとりひとりの気持ちを尊重する時代。自分のことを自分の大切な人にほんの少しだけ理解しようとしてもらえるだけで幸せなのだという「小さな幸せ」をみつけられるメッセージのこもったドキュメンタリーだった。
性別に押し込められる人生の不運を考えさせられる。個人的にスイス社会には不見識なので驚くことも多かった。女性に学びの機会が少なかったのは日本も同じだが、男性は強くあれという窮屈さは相当に見える。スイスは平和な楽園という印象は少々誤りで、家父長制という男性優位主義は現在も根強いということだろう。その中で、女性というハンデを打ち破って仕事に生きた祖母は実に魅力的だ。孫への愛も微笑ましい。一方、ゲイとして過去も曝け出す監督が赤裸々すぎてハラハラしてしまった。ドキュメンタリーとして正直で、留守番電話の声が温かい。監督家族のホームビデオからは富裕感が溢れ出してくる。ブルジョワ家庭の有利さもあるだろうが、孫の行動はおばあちゃん譲りだなと思うと胸に込み上げてくるものがあった。
作品データ

原題/Madame
制作年/2019年
制作国/フランス
時間/1時間34分
ジャンル/ドキュメンタリー
受賞歴/
原作/
配給/
監督/ステファン・リートハウザーStéphane Riethauser
出演者/ステファン・リートハウザー