寺島しのぶがベルリン国際映画祭最優秀女優賞『キャタピラー』

「実録・連合赤軍 あさま山荘事件」「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」と共に鬼才・若松孝二監督が昭和を描いた問題作。寺島しのぶが第60回のベルリン国際映画祭で銀熊賞最優秀女優賞を受賞。

あらすじ

(C)若松プロダクション

1940年、とある農村に住む青年、黒川久蔵は戦争の激化に伴い徴兵を受け、戦地へと赴むきます。

4年後、久蔵は頭部に深い火傷を負い、四肢を失った姿で村に帰還します。戦線で爆弾の爆発に巻き込まれた彼は、声帯を傷つけて話すこともできない上、耳もほとんど聴こえない状態になっていました。「不死身の兵士」と新聞に書き立てられ、少尉にまで昇進した久蔵を村人は“生きた軍神”と呼び崇め称えます。しかし久蔵の親戚たちは彼の変わり果てた姿に絶望し、妻であるシゲ子に世話を全て押し付けてしまいます。

シゲ子は無理心中を図り久蔵を殺そうとしますが思い留まり、軍神の妻として献身的に尽くすようになります。

戦地に赴く前は表向き好青年として通っていた久蔵は、実は欲深く暴力的な性格の男でした。彼は体に残された知覚で意思を伝え、美味な食事、自身の名誉の誇示、そしてシゲ子自信を求めていきます。

それに答え続けるシゲ子の心理状態も徐々に異様なものとなっていきます。

作品情報

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鬼才・若松孝二監督が反戦映画の「ジョニーは戦場へ行った」や江戸川乱歩の短編小説「芋虫」をモチーフにした戦時下で翻弄される異常な夫婦関係や戦争の愚かさと悲喜劇を描いた問題作。主演の寺島しのぶがベルリン国際映画祭・最優秀女優賞を受賞した。

公開日

2010年8月14日

上映時間

84分

監督・キャスト

監督/若松孝二

キャスト/寺島しのぶ、大西信満、河原さぶ、地曳豪、ARATA(現・井浦新)、篠原勝之、吉澤健

感想・レビュー

(C)若松プロダクション

あくまでも参考、イメージの元の一つと言うことになっていますが、映画「キャタピラー」は江戸川乱歩の短編小説「芋虫」の映画化作品といっていいでしょう。大人の事情、その他もろもろがあり原作にはクレジットされていませんが、どう見ても「芋虫」です。

ただ、あくまでも物語を幻想小説の枠内でとどめていた乱歩に対して、若松孝二監督は生々しさと、自身の思想信条を色濃く込められています。

若松孝二監督はデビュー以来ずっと作った映画が事件化してきた人で、今でも関連本が発売され続けていたりして、簡単に語ることはできない人です。「キャタピラー」はその中でも特に生々しく、グロテスクな部分を強烈に抽出して作り上げた映画と言えるでしょう。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(4.0)
考えさせられる
(5.0)
笑える
(3.5)
泣ける
(3.0)
総合評価
(4.5)

まとめ

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「キャタピラー」は実は84分しかない映画なのですが、映画自体はものすごい熱量と圧があって、2時間以上の作品を見るくらいの体力と精神力をもっていかれる映画になっています。一度は見ておいた方がいい映画ですが、その一方で気軽には見られないちょっと覚悟がいる映画です。

(文:村松健太郎)

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