スクリーンの内側に再現された日本独自の映画文化『カツベン!』

映画に音を乗せる技術がなかった時代のサイレント映画は、欧米では劇伴の演奏を添えて上映されていたが、日本では劇伴に加えて活動弁士と呼ばれる人々が口頭で映画の内容やセリフを独特の調子で説明する文化があったという。『カツベン!』はそんな活動弁士を主人公にした、映画や日本独自の映画文化に対する愛の溢れた小気味良い娯楽活劇だった。

あらすじ

(C)2019「カツベン!」製作委員会

子供の頃から活動弁士に憧れ、見様見真似の説明を披露するほどだった染谷俊太郎(成田凌)であったが、大人になってみればウカツな流れで泥棒一味の片棒を担がされていた。ニセ弁士家業に嫌気がさしていた俊太郎は、泥棒失敗のどさくさに紛れ逃げ出すことに成功し、とある映画館「青木館」に流れ着く。青木館に住み込みで働くことになった俊太郎は、ホンモノの弁士になるチャンスに期待をふくらませる。しかし青木館の曲者たちに加え、ヤクザものが仕切るライバル映画館まで絡んできて、しまいには上を下への大騒ぎ――!

作品情報

公開日
2019年12月13日

上映時間
127分

監督・キャスト
監督:周防正行
主要キャスト: 成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、山本耕史、池松壮亮、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊、徳井優、田口浩正、正名僕蔵、成河、森田甘路、酒井美紀、シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、城田優、草刈民代

予告編

公式サイト
周防正行監督最新作 映画『カツベン!』公式サイト

感想レビュー

活動弁士という職業や文化の存在は知っていても、実際に弁士の説明込みでのサイレント映画を観たことがあるという人は少ないのではないかと思うが、本作では見事にその魅力を現代のスクリーンに蘇らせてくれたと思う。現代の日本であっても弁士として活動している人がいて、本作の監修や演技指導に参加しているらしく、日本独特の語りの文化を映画を通して堪能することができた。

個人的には弁士の説明のオリジナリティや、臨機応変な対応などが非常に興味深く印象に残っている。「種取り」と呼ばれる活動写真の撮影シーンにたまたま写り込んだアクシデントを、上映シーンでは弁士の説明で面白おかしくストーリーに組み込んで整合性をもたせたり、フィルムの切れ端をつなぎ合わせて全く新しい物語にしてしまったりするシーンは、ある種の映画のマジックの一端でもある。

華のある口上・説明シーンが一つの目玉でもある本作だが、その他の物語の場面場面に散りばめられた遊び心が憎い映画でもある。作り込まれたセットを活用したスラップスティックコメディ要素は微笑ましく、筆者は両面タンスなるものをこの映画で初めて知ったのだが、めぞん一刻の五代くんと四谷さんが繰り広げそうな壁を挟んでの攻防はたいへん笑わせてもらった。その他のアクションシーンに関してもバカバカしくなりすぎない程度の面白さのバランスが大変好ましい。また、ライバル映画館でのドタバタがもたらすシチュエーションも面白おかしくもロマンチックでおすすめのシーンだ。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(3.5)
考えさせられる
(3.5)
笑える
(4.0)
泣ける
(3.0)
総合評価
(4.0)

まとめ

(C)2019「カツベン!」製作委員会

日本人は何かと語り・話芸に思い入れがある人種だと思う。セリフでない地の文やナレーションや定型文が一つの見せ場になり得るのは考えてみると奇妙な文化だ。本作では映画が発達して視覚情報とセリフで完結してしまうことで、活動弁士による説明が廃れていった歴史も仄めかされているが、日本の話芸はカタチは違えど様々な分野で血となり肉となってきた歴史があり、活動弁士もその大きな流れの中で近代化の一時代を担ったのだと思う。
活動弁士の説明込みのサイレント映画のソフトなども存在するようなので、この映画をきっかけに掘ってみるのもありかもしれない。

(文:フレームホッパー)

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