「行け!稲中卓球部」「ヒミズ」の古谷実による同名コミックを、V6の森田剛主演で実写映画化。共演に濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシなど。監督は「犬猿」、「愛しのアイリーン」「銀の匙 Silver Spoon」の吉田恵輔。
あらすじ

「なにも起こらない日々」に焦りを感じながら、ビル清掃会社のパートタイマーとして働く岡田。同僚の安藤に、想いを寄せるカフェ店員のユカとの恋のキューピッド役を頼まれて、ユカが働くカフェに向かうと、そこで高校時代の同級生・森田正一と再会します。
ユカから、森田にストーキングされていると知らされた岡田は、高校時代、過酷ないじめを受けていた森田に対して、不穏な気持ちを抱くのですが・・・。
岡田とユカ、そして安藤らの恋や性に悩む平凡な日常と、ユカをつけ狙い、次々と殺人を重ねるサイコキラー森田の狂気が交錯する時、事態は思わぬ展開を見せます。
作品情報

公開日
2016年5月28日
上映時間
99分
監督・キャスト
監督/吉田恵輔
キャスト/森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ、駒木根隆介。山田真歩、大竹まこと、栄信、山中聡
予告編
感想・レビュー

ちょっと変わりものの同僚に恋のキューピッドを頼まれた男の、変則的なラブストーリー。という入り口から始まる映画「ヒメアノ~ル」はR15指定の映画になっています。
しかも、恋愛の要素で指定が入ったのではありません。
全ては、物語に突然現れる森田(という役を森田剛が演じています)というサイコパスな男による暴力の描写のためです。
かつて学生時代にいじめを受けていたという理由はあるにせよ、森田の突発的かつ執拗な暴力はすさまじく、一気に物語を支配します。
映画の前半で、その一種独特な異様さで、物語に不穏さをもたらすムロツヨシの怪演も忘れ難いものですが、それすら、森田の暴走のための助走であったとしか思えないものになっています。
前半と後半のブリッジになる部分で、映画のトーンをガラッと変える様にタイトルとクレジットの文字が入るのですが、このタイミングの絶妙さに映画ならではの演出手法を感じることができます。
まとめ

映画は“ある時点で時が止まった人”の悲劇を遠慮のない暴力シーンをふんだんに取り込みながらも描いた物語と言えます。
森田剛演じる森田は完全にサイコパスの領域にいる人物であり、その行状はとうてい同調できるものではありませんが、その一方で、ラストに挿入される回想シーンでなんとも言えない気持ちになります。
吉田恵輔監督のフィルモグラフィは一見するとコメディベースの作品が続いていますが、その一方でその裏側というかすぐ隣にある人の心にある闇、狂気、厳しい真実もしっかりと描いていて不思議なバランスを秘めています。
本作もラブコメ的な要素が、特に前半部分に続きますが、どこか危うさをはらんでいます。そして、タイトルが入ってからの後半戦。危うさというところで何とか踏みとどまっていた物語は一気に闇へと加速していきます。
先日、脱退と解散が発表されましたが、映画公開当時森田剛はまだバリバリのアイドルグループのV6のメンバーでした。彼の演技力のファンという人も多かったでしょうが、アイドルとしての森田剛ファンも多かったであろうに、このような狂気にかられた演技を見せて大丈夫なのか?と心配にもなってしまいます。
今ほど、一般的な存在でなかった濱田岳とムロツヨシの危うさ、佐津川愛美の罪作りな存在感など他にも見どころが多く99分の上演時間を一気に駆け抜けます。
(文:村松健太郎)