二丁拳銃男はネットのオモチャ!?『ガンズ・アキンボ』

ガンズ・アキンボ

現代社会のリアルと皮肉を詰め込んだ、ハチャメチャバイオレンスコメディ。
ハリー・ポッターの面影もだいぶ薄れたダニエル・ラドクリフが冴えない今どきのオタクを演じ、オタクの妄想が現実化したかのような展開に巻き込まれるが、当然ながら普通のオタクはアクション映画のハッスルマッチョみたいに強くないのでとことん酷い目に合うのが面白い。

あらすじ

ガンズ・アキンボ
(C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.

冴えないプログラマでオタクなマイルズはネットトロールが趣味。日々SNSや配信チャット欄で嫌いなやつを見つけては怒らせてを繰り返していたが、「スキズム」というイカレポンチ共が殺し合う違法スポーツの配信サイトを荒らしてイキリちらしたことが地獄の始まりだった。突如自宅に押し入って来たスキズム運営者のイレズミ男たちに拉致られ、両手を穴だらけにされた上に拳銃二丁をボルト留めされ、見るも無残な人体改造を施されたマイルズにイレズミ男は告げる。
「スキズムにようこそ。お前の対戦相手はニックスだ。制限時間は24時間。失敗したらお前は死ぬ。逃げようとしても殺す。成功すれば――お前を歓迎しよう」
人殺しどころか銃を撃ったこともない! それ以前に両手が銃になっちまってスマホの操作すらまともにできない! マイルズの明日はどっちだ!

作品情報

ガンズ・アキンボ
(C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.

公開日
2021年2月26日

上映時間
98分

監督・キャスト
監督:ジェイソン・レイ・ハウデン
主要キャスト: ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィーヴィング、ネッド・デネヒー、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、リス・ダービー

予告編

公式サイト
映画『ガンズ・アキンボ』オフィシャルサイト

感想レビュー

(C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.

『ガンズ・アキンボ』の世界ではスキズム(SKIZM)という違法殺人スポーツの観戦が流行っていて、主人公は両手に拳銃をボルト留めされた男だっていうんだからなかなかに非現実的な映画に思えるだろう。しかしながらこの映画が映し出す世界は、現代社会の一部を上手く切り取っている。この映画で描かれるように現実のネットはトロールに満ちてるし、主人公・マイルズが言うようにスキズムのチャット欄とYouTubeのチャット欄は大差がない。劇中では最初はスキズム視聴者に笑われバカにされていたマイルズが、ストーリーが進むにつれてどんどん愛され、応援されるようになるが、そういう現象も現実のネットでは割とよくあることだと思う。

そういう皮肉が活きるのも真面目にエンタメしているからこそで、両手を銃にされてしまったマイルズの悪戦苦闘は可哀そうだけど笑えるし、女殺し屋・ニックスが繰り出すガンフーはなかなかにクレイジーで、白い粉がパワーアップアイテムだったり、レゴブロックのメリケンサックがスローモーションで飛び散ったり等々、小ネタや遊び心と、バイオレンスに満ちている。

二丁拳銃の男が主人公であり、近年『ジョン・ウィック』で再注目された最新版ガンフー的なアクションを取り入れた非常にオタク受けするエンターテイメントの体を取りながら、ネットに慣れ親しみネットに生息するオタクたちをチクリチクリと刺していく、悪趣味に悪趣味を掛け合わせた痛気持ちいい奇妙な映画で、とにかくクセは強いがハマる人はめっぽうハマる映画だろう。

余談だが、マイルズ宅にニックスが襲撃した際にTVで流れている映画は、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ハード・ターゲット』で、ジョン・ウー監督のハリウッド進出作品である。ジョン・ウーはガンフーやHeroic Bloodshedと呼ばれるジャンルを生み出したいわば開祖で、アクション映画界に数々のフォロワーを生み出したが、『ガンズ・アキンボ』はその中でもオタクのエッセンスが色濃く投入された最新のフォロワー作品の一つとみなすこともできる。

フォロワー作品の中で、『マトリックス』や『ウォンテッド』や、あるいはオリジンの『男たちの挽歌』でもなく『ハード・ターゲット』が引用されている理由は定かではないが、実際に『ハード・ターゲット』を見返してみると『ガンズ・アキンボ』に影響を与えたと考えられる部分も少なくなく、”娯楽目的の人間狩り組織”がストーリーのベースにある点などは特徴的な共通点だと言える。

人間狩りの娯楽を享受する存在が『ハード・ターゲット』では”プレイヤーとして参加した金持ち”であるのに対して、『ガンズ・アキンボ』では”ネット配信で観戦する多数の一般人”、と異なっている点に関しては時代の変化がよく顕れた対比として面白い。ネット配信とそのユーザーの罪に着目する事自体は今では新しい表現とは言えないものの、『ガンズ・アキンボ』においてこの今どきのリアルを写し取った表現はブラックユーモアを伴ってうまく機能している。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(4.0)
考えさせられる
(3.5)
笑える
(4.0)
泣ける
(3.5)
総合評価
(4.0)

まとめ

ガンズ・アキンボ
(C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.

『ガンズ・アキンボ』はボンクラオタク的英雄願望と、現代のリアルが入り混じった娯楽映画であり、甘そうで苦い、苦そうで甘い絶妙なバランスを持っている。どちらにも突き抜けない部分を好まない人もいるかもしれなが、オタクやオタク的なネタを解する人なら観て損はないだろう。それに、どことなくテディベア感のあるヒゲもじゃラドクリフはずっと面白いし、サマラ・ウィーヴィング演じるニックスはなかなかに狂っててカッコいいから、それだけで満足度はだいぶ高い。

(文:フレームホッパー)

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