現在開催中のイタリア映画祭2021(2021/5/13~6/13・6/17~7/18はオンライン上映)に登場した野心作。1988年生まれの双子のディンノツェンツォ兄弟による長編第2作目は、ベルリン映画祭で最優秀脚本賞を獲得。バラバラに切り取られた風景が集約していく面白さがありました。
あらすじ
とりたてて変わったことはなさそうな日常が少しずつ壊れていく群像劇。ローマ郊外の夏。近所と程良い関係を築き、息子と娘が成績優秀なプラチド家は問題もなく、普通の家族のように見える。だが実は、親が子供たちに無関心で、父親にはサディスティックな傾向があった。周囲の大人たちの醜悪さを見抜いている子供たちは、やがて大胆な行動に出る。
作品データ
原題/Favolacce
制作年/2020年
制作国/イタリア・スイス
時間/98分
ジャンル/サスペンス
受賞歴/ベルリン国際映画祭最優秀脚本賞
監督/ディンノチェンツォ兄弟
出演キャスト/エリオ・ジェルマーノ、バルバラ・キキャレッリ
イタリア映画祭公式サイト/http://www.asahi.com/italia/2021/
感想レビュー
群像劇には良作が多いもの。本作の特徴は、それが主に少年少女の目線である点でしょう。子どもから見た大人の情けなさ、怖さといったものが遠慮なく描写されます。大人の自己中心性が生んでしまう残酷さや、犠牲となる子どもの切ない表情が美しい映像で迫ってくるのです。
イタリアの陽光や風も感じられるような爽やかさの中で、沸々と物事が積み重なっていきます。カジュアルに下ネタを繰り出す大人の下品さ。様々な制約を受けざるを得ない、子ども時代の窮屈さ。子役にもセクシャルなセリフを語らせる赤裸々さには思わず親目線でハラハラしてしまいましたが、実は特別なことではないのかも。
終盤まで物語がどう転ぶのか見えないため、笑っていいのかどうなのかと戸惑う場面も折に触れて登場します。中でも、父子家庭の父親が最高。ピザのシーンには率直に笑ってしまいました。悪意のないユーモアが映画のスパイスになっているわけです。
まとめ
ディンノチェンツォ兄弟によれば、本作は「アメリカもビューティー(美人)も出てこない『アメリカン・ビューティー』(1999年米:アカデミー作品賞受賞)だ」とのこと。その言葉通り、近隣住民の生活が徐々にザワザワしていく流れにハッとします。物語は大人目線にも広がっていき、そこからの集約感は格別。それぞれの鬱屈した行動が迎える結末は思いもよらないものかもしれません。なお、美人はいないとの監督談ですが……少年少女は特筆したい美しさでした。
(文:キタコ)
※本作のオンライン上映は視聴可能な人数に制限があり、制限を超えた時点で配信終了になるそう。お気になりましたら、どうぞお早めに!