認知症の疑似体験から考える老後「ファーザー」

名優アンソニー・ホプキンスが認知症の父親役を演じた人間ドラマは何が真実かわからないサスペンスのような作品に仕上がっている。作品の見どころと本作であつかわれる認知症の症状のわかりやすい解説をしている。

あらすじ

@NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニー。認知症により記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配した介護人を何度も拒否してしまう。そんな時に、アンソニーはアンから、新しい恋人とパリで暮らすと告げられる。しかしアンソニーの自宅には、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと主張。そしてアンソニーにはもう1人の娘ルーシーがいたはずだが、その姿はない。現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、アンソニーはある真実にたどり着く。

作品情報

公開日
2021年5月14日

上映時間
97分

監督・キャスト
監督:フロリアン・ゼレール
主要キャスト: アンソニー・ホプキンス、オリビア・コールマン、マーク・ゲイティス、イモージェン・プーツ、ルーファス・シーウェル、オリビア・ウィリアムズ

予告編

公式サイト
映画『ファーザー』オフィシャルサイト 2021年5/14公開 (thefather.jp)

感想レビュー

@NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

「認知症」というテーマを扱った映画はたくさん存在する。それは、家族の視点から描いたものやリアルなドキュメンタリー、本作のような本人目線と様々なかたちがある。患った本人目線の作品は混乱の連続でサスペンスのような仕上がりになる。どこまでが真実でどこからが本人の過去や幻覚、思い違いによるものなのかの判断がつかなくなる。

アンソニー・ホプキンスの演技はさすがというか、これが演技でできるのかという領域に達している。「羊たちの沈黙」でアカデミー賞受賞しているがもう一回くらいはいつか受賞するのではないかと毎回思わせながらの6度目のアカデミー賞ノミネート。そろそろあげないと現在(2021)84歳だ。

認知症という病について、70歳以上の2番目に患うことの多い病とされている。いまだ認知症に効く薬は存在しない。もしも開発されたらノーベル賞ものだろう。認知症は身近な人の理解が必要な病気であり、ケアの仕方も難しく家族を精神的に不安定にしてしまうこともある。
中核症状(皆に現われる症状)として、記憶障害と見当識障害(時間・場所・人物の失見当)、認知機能障害がある。例えば、置いた場所を忘れてしまったという些細なことがきっかけで、「誰かに盗まれた」と思うという言動にはじまり、自分が言ったことを引っ込められずに誰かに盗られるから隠していると言ったことがいつの間にか真実の出来事のように本人からは語られる。この一連の流れが本作でもリアルに描かれている。

周辺行動(一部の人に現われる症状)として多い幻覚、妄想、徘徊、異常な食行動、抑うつと不安などの症状も本作では実に見事に劇中に盛り込まれているにも関わらず全くつめ込みすぎ感も感じることなくひとつひとつのエピソードも理解しやすい。観客である私たちでさえ現実と幻覚の境目がどこなのかわからなくなり混乱する作りとなっている。この混乱が実際に患者自身に起きている出来事でありその繰り返しからうつ症状やいらだちから暴力的になることもあるのだろう。
患者からの視点で病を疑似体験する映画は制作に多くの勉強や誤解が生じない為の配慮がなされておりドキュメンタリーよりも役者の演技力が試される点でもとても難しい。そのすべてのピースを綺麗にはめて作り上げた本作は今後、認知症のことを知るきっかけの映画の代表格となることは間違いない。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(3.0)
考えさせられる
(5.0)
笑える
(1.0)
泣ける
(3.5)
総合評価
(4.5)

まとめ

@NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

アカデミー賞6部門にノミネートされている本作は「認知症」というテーマをあつかったのにサスペンス映画をみたような錯覚に陥る。それくらい役者の演技は真に迫るものがある。他人ごとではなく、いつか自分がなる可能性がある病。そして介護する側にもなるかもしれない。こんな風な景色になるのかという気づきと介護する側、される側の精神面でのサポートへの難しさを実感する内容であった。

(文:編集長)

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