女と女の恋を描いて、1950年代のLGBTへの無理解も浮き彫りにする秀作だ。レズビアンがテーマというと観客は興味本位になりがちだが、とても真摯で素晴らしい余韻である。この物語は半自伝だという原作者のパトリシア・ハイスミスについても、触れていきたい。
あらすじ
1952年。クリスマスシーズンのデパートでアルバイトをしているテレーズにはリチャードという恋人がいたが、結婚に踏み切れずにいた。ある日テレーズは、デパートに娘へのプレゼントを探しに来たエレガントな女性キャロルにひと目で心を奪われてしまう。それ以来、2人は会うようになり、テレーズはキャロルが夫と離婚訴訟中であることを知る。生まれて初めて本当の恋をしていると実感するテレーズは、キャロルから車での小旅行に誘われて旅立つが……。『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットと『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラが共演。ニューヨークを舞台に女性同士の恋を描いた恋愛ドラマ。アメリカの女性作家パトリシア・ハイスミスのベストセラー小説『ザ・プライス・オブ・ソルト』を、『エデンより彼方に』のトッド・ヘインズ監督が映画化。テレーズ役のマーラが第68回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。
作品情報
公開日
2016年2月11日
上映時間
118分
原題
Carol
監督・キャスト
監督:トッド・ヘインズ
主要キャスト: ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー
予告編
感想レビュー

恋愛映画として、とてもロマンチック。正反対に見える2人が出会い惹かれ合う様子もナチュラルに映る。それでいて、社会的な意義も大きい作品だ。今でこそLGBTの人権は高まってきたが、1950年代の同性愛は米国精神医学会で反社会的人格障害に分類されていた。特にキャロルが抱える母として妻としての苦悩には、胸が痛む。
その一方で、女性の懸命さを際立たせるためか、男性陣が大いに情けなく描かれているので気の毒なほど。盛大にすっ転ぶ夫の姿には思わず、がんばれ…!と目頭が熱くなった。
主演2人の美しさは最大の見どころ! キャロル役のケイト・ブランシェットは品が服を着て歩いているよう。裕福さが爆発しているのに、神々しいまでに嫌味が無い。テレーズ役のルーニー・マーラは可愛らしく、オードリー・ヘプバーンを彷彿とさせる。2人のファッションも素敵だ。
ヒッチコック監督の『見知らぬ乗客』やアラン・ドロンの『太陽がいっぱい』といったサスペンスで名を馳せた原作者のパトリシア・ハイスミスは、バイセクシュアルとして知られている。本作は彼女の初めての恋愛小説。細やかな説得力はリアリティから生まれている。長らく別名義で出版されていたことを思うと、世間的な空気感や恋の繊細さが窺われるというものだ。
まとめ

原作者の思いも踏まえて鑑賞すると、恋する2人の痛みや喜びがまた切実に迫るだろう。見つめ合う2人の視線には、同士のような情愛も溢れている。華やかな演技派女優があるがままに演じており、セクシーなシーンにも良い意味で生々しさがない。再現された50年代の街並みや車や家具に至るまで、豪華。タバコの煙は女性の自我の証に見え、ラストも素晴らしい。切なく温かく、目にも心にも贅沢な映画である。
(文:キタコ)
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