とんでもない魅力を秘めた映画だ。アル・カポネをテーマにした作品の中でも、かなり異色の味わいである。過去の名作とも比べながら、本作がいかに野心的かを紐解いていきたい。
あらすじ
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディが、“暗黒街の顔役”と恐れられた伝説のギャング、アル・カポネを演じた伝記映画。「クロニクル」のジョシュ・トランクが自らのアイデアを基に脚本・監督を務め、カポネの知られざる最晩年を新たな視点で描き出した。1940年代。長い服役生活を終えたカポネは、フロリダの大邸宅で家族や友人に囲まれながらひっそりと暮らしていた。かつてのカリスマ性はすっかり失われ、梅毒の影響による認知症が彼をむしばんでいる。一方、FBIのクロフォード捜査官はカポネが仮病を装っていると疑い、1000万ドルとも言われる隠し財産の所在を探るべく執拗な監視を続けていた。カポネの病状は悪化の一途をたどり、現実と悪夢の狭間で奇行を繰り返すようになっていく。共演に「ハウス・ジャック・ビルト」のマット・ディロン、「ダンケルク」のジャック・ロウデン、「ツイン・ピークス」のカイル・マクラクラン。
作品情報
公開日
2021年2月26日
上映時間
104分
原題
Capone
監督・キャスト
監督:ジョシュ・トランク
主要キャスト: トム・ハーディ、マット・ディロン、カイル・マクラクラン、リンダ・カーデリニ
予告編
「カポネ」公式予告編
公式サイト
https://capone-movie.com/
感想レビュー

本当にあのアル・カポネが主役なのか?とたじろぐほどの弱り方に、まず震える。こんなに気の毒なカポネは初めて見た。かつての栄光に自らが苦しめられていく描写には、息を飲む。悪夢に追われる様子は、ほとんどホラー。栄華を欲しいままにした男が認知症を患う辛さが、これでもかと迫ってくる。アル・カポネをご存知ない方も、引き込まれてしまうのではないだろうか。
幻覚とリアルが入り乱れるので、観客としては少々混乱することもあるかもしれない。人物や小道具が鍵になっていると気づけたら、あとはただ演技を味わうのみだ。というのも、トム・ハーディが素晴らしいのである! なんと体重の増減をせずに肥満体に見せたというのだから、驚異的だ。毎日4時間のメイクも見事で、心身ともに憔悴した姿は老人のよう。眼球の色まで自在に変えているのでは・・・と思える鬼気迫る圧は見どころだ。度肝を抜かれるに違いない。
1920年代のアメリカで暗躍したアル・カポネがモデルの名作映画には『暗黒街の顔役』や、その逮捕劇を追った実録『アンタッチャブル』があるが、いずれも彼が活躍していた頃にスポットライトを当てている。一方、本作はその最晩年を描いた点で新しい。刑務所で梅毒が悪化し、認知症を抱えて出所したのは史実である。だが、ここでは事実関係を追うのではなく、その脳内に渦巻く幻想を見せるアイデアだ。『クロニクル』の悲哀で世界を驚かせたジョシュ・トランク監督ならではの、自由な発想だろう。
まとめ

脇を固めるのは『ハウス・ジャック・ビルト』のマット・ディロン、『ツイン・ピークス』のカイル・マクラクランと華のある俳優陣。美しいフロリダの豪邸で、金策に頭を悩ませるファミリーが少し古い服を着ているといった細やかな演出も見逃せない。日本でもかつて、オウム真理教の教祖が刑務所で認知症状態であると報じられたことがあった。仮病を疑われたのも同じだ。犯罪まみれの人物ではあるが、この末路の描き方は衝撃的に映るだろう。これは、かつてないカポネ像である。
(文:キタコ)