あらすじ
前作『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』でカザフスタンに恥をかかせたとして、終身刑で強制労働を強いられていたボラットだったが、14年後に突然釈放される。カザフ大統領府に連れて来られたボラットは、アメリカ副大統領マイク・ペンスに貢ぎ物を渡す任務をなぜか命じられる。意気揚々と再びアメリカの大地に降り立ったボラットだったが、別便で送られてきた貢ぎ物のコンテナを開けるとそこにはボラットの娘トゥーターが入っていた。密航してきたトゥーターに貢ぎ物が食べられていたことで任務遂行が危うくなり、代わりにトゥーターをマイク・ペンスの貢ぎ物にすることにしたボラットだったが、前作同様、行く先々で問題を起こすことに……。
感想レビュー
言い表そうとするとなんとも複雑な映画なのは前作同様。俳優が架空のキャラクターを演じ架空の物語に沿って進むドラマであるが、その中のエピソードの数々がドキュメンタリーというか体当たり的な手法で実在の人物を相手取って撮影されているという、ボラットおなじみのスタイル。タブー、政治、民族、人権などなど様々なセンシティブなものをネタにするブラックユーモアは観る人を選ぶだろうし、ドラマ部分の野暮ったい感じも好みが分かれるところだが、観ている我々も常にボラットに度量を試されているのだとひしひしと感じる。
前作がヒットしたことでボラットというキャラクターが有名になりすぎて、以前のような騙し討ち的な撮影が難しくなったという話は真実なようで、実際に14年を経て制作された本作であっても劇中で一般の通行人たちに挨拶されたり追いかけられるシーンが挿入されている。そのためボラットは変装グッズを買い込み、度々おかしな変装でことに挑む。有名人のボラットのままではドキュメンタリー的なシーンのたびに「この相手の人はどこまで承知で撮影に応じてるのか、役者じゃないのか」などと観客が必要以上に考えることになるからだ。ボラットの変装以外に、そのような観客の疑問を緩和する手法として決定的なのが”ボラットの娘”という新たな配役だろう。
一応の軸としてのストーリーに関しては、おそらく当初はボラットの娘トゥーターの登場に深く関連させて、女性にまつわるネタやタブーがメインだったのだと思うのだが、撮影と新型コロナの感染拡大の時期が重なったことでそちらのインパクトが強くなってしまったのではないかと思う。結果的には新型コロナへの対策初期の認識の甘さと、その後の外出禁止状態やアンチマスク集会のような感染拡大後の悲惨な状況が同時に収められた奇跡のような映画になっていて非常に面白い。
その他、撮影に巻き込まれた人々に関して(それが本物なのか、はたまた協力者なのかも含めて)思うところはたくさんあるのだが、このなんとも言えない感情は実際に観て感じてもらう他ないだろう。個人的にはちょっと狂ってるけど気の良い共和党支持者の二人がもし事実なら面白いのになぁ、と可能性は低そうだが思うだけ思っている。
作品データ
原題/Borat Subsequent Moviefilm: Delivery of Prodigious Bribe to American Regime for Make Benefit Once Glorious Nation of Kazakhstan
制作年/2020年
制作国/アメリカ合衆国
時間/96分
ジャンル/第78回 ゴールデングローブ賞 最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル)、同最優秀主演男優賞(コメディ/ミュージカル)
受賞歴/コメディ、モキュメンタリー
原作/
配給/アマゾン・スタジオズ
監督/ジェイソン・ウォリナー
出演者/サシャ・バロン・コーエン、マリア・バカローヴァ