心の芯が熱くなる映画です。ボクシングを知る人はもちろん、知らない人にも訴えかけてくる情熱です。こちらでは、胸の奥を揺さぶるリアリティの源泉を探ってみます。
あらすじ
ボクサーの瓜田(松山ケンイチ)は誰よりもボクシングを愛しているが、どれだけ努力を重ねても試合に勝てずにいた。一方、瓜田の誘いでボクシングを始めた後輩・小川(東出昌大)は才能とセンスに恵まれ、日本チャンピオンに王手をかける。瓜田の初恋の女性・千佳(木村文乃)は、今では小川の婚約者だ。強さも恋も、瓜田が望んだものは全て小川に奪われたが、それでも瓜田はひたむきに努力し続ける。しかし、ある出来事をきっかけに、彼らの関係は変わり始めていくことに……。
作品情報
公開日
2021年4月9日
上映時間
107分
監督・キャスト
監督:吉田恵輔(「吉」は「つちよし」が正式表記)
主要キャスト: 松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生、東出昌大
予告編
公式サイト
https://phantom-film.com/blue/
感想レビュー

それぞれの出発点からボクシングに引き寄せられた人々の挑戦が、切なくも眩しい青春劇です。中でも、負け試合が続く主人公・瓜田のキャラクターが素晴らしいのです。時に罵倒され、時に才能の差を感じながらも後輩にアドバイスを送る姿の哀愁。それでいて、所々で爆笑を誘う会話の妙には嬉しくなりました。
役者陣の演技は大きな見どころです。クランクインまでの2年間、役作りを重ねたという松山ケンイチは新たな代表作を手にしたのではないでしょうか。動きもさることながら、微笑みが脳裏から離れません。東出昌大の表現力にも圧倒されました。柄本時生の肉体美に驚きます。『聖の青春』でも共演した3人の好演が見事です。木村文乃の不安は観客の代弁者でもあり、グッと胸に迫りました。
試合会場やジムにいるかのようなリアリティには、理由がありました。この臨場感は全編をハンディカメラで撮影されたことで生まれたもの。試合における攻防もとても生々しいのですが、それは吉田恵輔監督ご自身の30年に及ぶボクシング歴の賜物でしょう。監督自らも殺陣を担当、派手なパンチよりも本物を描くことを選び、実際に打ち合っているというのですから迫力は相当なものです。
登場人物のモデルも監督が実際に出会ってきた人々とのこと。瓜田のモデルになった4回戦ボクサーの男性に向けて「今、何してる?」という想いが募り、監督は8年前に本作の脚本を執筆されたのだそう。その想いがご本人に届きますようにと願ってやみません。
まとめ

常に挑戦者側のブルーコーナーに立ち続けるボクサーの姿に、強いって何だろう?と考えさせられます。彼らが抱える矛盾や苦悶は、まさしく生身の深み。後楽園ホールの熱気が忘れがたく、エンタメ効果に彩られたボクシング・ムービーではないからこそ、ボディブローを脇腹に打ち込まれたように心に効いてきました。勝ち敗けに生きる彼らの葛藤と友情と、恋。素晴らしい1作です。
(文:キタコ)
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