圧巻の女優力にウディ・アレン監督の哀しみも添えて『ブルージャスミン』

五つ星評価では足りない映画だ。鑑賞したら素晴らしい体験ができる。見事、オスカー像を獲得した主演ケイト・ブランシェットを称えたい。そしてウディ・アレン監督自身の人生が刷り込まれている点にも、注目してみたい。

あらすじ

上流階級から転落したヒロインが再起をかけて奮闘し、苦悩する姿を描いたドラマ。ニューヨークの資産家ハルと結婚し、セレブリティとして裕福な生活を送っていたジャスミンは、結婚生活が破綻したことで地位も資産も全て失ってしまう。サンフランシスコで庶民的な生活を送る妹ジンジャーのもとに身を寄せたものの、不慣れな仕事や生活に神経を擦り減らせ、次第に精神が不安定になっていく。それでも再び華やかな世界へと返り咲こうと躍起になるジャスミンだったが……。

作品情報

公開日
2014年5月10日

上映時間
98分

原題
Blue Jasmine

監督・キャスト
監督:ウディ・アレン
主要キャスト: ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、ボビー・カナベイル、アンドリュー・ダイス・クレイ

予告編

感想レビュー

Photograph by Merrick Morton (C)2013 Gravier Productions, Inc.

しばし放心してしまった。セレブ生活から一転、庶民に逆戻り。経済力ある男に依存して自らのアイデンティティを放棄し、湯水のごとく散財していた女性ジャスミンが主人公。男を失くして、元いたレベルまで生活を下げることができない。悪戦苦闘。身も心もボロボロだ。そのさまが人間くさいから目が離せない。

ウディ・アレン監督お得意の、物を投げ合うようなセリフの応酬が痛快。感情移入しやすい方にはキツい物言いに聞こえるかもしれないが、実にリアルだ。 言いたい放題。遠慮がない。辛辣さに滲み出るユーモア。切羽詰まったところから笑いが生まれるのだからもう、さすがである。

ジャスミンを演じたケイト・ブランシェットが猛烈な演技。オファーを受けた時には「パニックに陥った(笑)」と言うケイト。美しい容姿にブランド品を纏いながら、庶民クラスであがく姿が健気だ。哀しくも可笑しくて、高飛車なのに憎めない女性像。気品あるケイト・ブランシェットというブランドが崩壊する勢い。妹役のサリー・ホーキンスとの言い合いは見どころだ。ウディ・アレン監督は全ての俳優女優に対して俳優組合が定める最低賃金しか払わないことを知ると、さらにグッとくるではないか。

ジャスミンがニューヨークから逃げた姿は、スキャンダルに追われてアメリカを後にしたウディ・アレン監督自身にも重なる。内縁関係にあったミア・ファローの養女を児童虐待していたと、ミアとウディの息子であるローナン・ファローに告発されてから、ウディ・アレンの居場所は無くなった。同じくミアの養女であるスン・イーとウディが結婚したことを恨むミア・ファローの虚言だと、ウディ側は主張。今も双方が譲らない。なお、ミアはVanity Fair誌のインタビューで「息子のローナンは前々夫のフランク・シナトラの子供かもしれない」と告白している。実際にローナンはシナトラに激似である。お分かりいただけただろうか。なんという複雑さ! 双方ともに切ない。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(4.0)
考えさせられる
(4.0)
笑える
(4.0)
泣ける
(3.5)
総合評価
(5.0)

まとめ

Photograph by Merrick Morton (C)2013 Gravier Productions, Inc.

本作で描かれるのは、生活力もなく立ち上がり方もおぼつかない女の、のたうちまわる日々だ。財産の失い方は違っても、コロナ禍の現在、世界各地で同様に境遇が一変した方も多いだろう。高慢が地に落ちた時に、剥き出しの1人の人間が現れる。ラストシーンは後を引く。あの幕切れを選ぶところが、まさしくウディ・アレン監督のペーソスだ。笑いと哀しさ。圧巻の女優を見たい方には、本作をぜひ推したい。

(文:キタコ)

現在、WOWOW「ミニシアター応援宣言」でも無料放送・配信中。
ミニシアター支配人 神奈川 横浜シネマリン 八幡温子さん推薦作品「ブルージャスミン」

コメントを残す