うまい。うますぎる。画面に映し出されるタイ語は全く分からないが、気持ちが分かりすぎるドキドキハラハラ映画だ。まるでスパイ物を観るような緊迫感である。本作がどうして魅力的なのか、タイの経済事情も踏まえて確認していきたい。
あらすじ
中国で実際に起こったカンニング事件をモチーフに製作されたタイ映画。同国で大ヒットを記録したクライムエンタテインメント。天才少女を中心とした高校生チームが世界規模のプロジェクトに挑む姿を描く。小・中学校と優秀な成績を収め、特待奨学生として進学校に転入を果たした女子高生リン。テストの最中に友人のグレースをある方法で手助けしたリンの噂を耳にしたグレースの彼氏パットは、試験中にリンが答えを教え、代金をもらうというビジネスを持ちかける。さまざまな高度な手段を駆使し、学生たちは試験を攻略していく。リンの売り上げも増加していった。そして多くの受験生の期待を背に受けたリンたちは、アメリカの大学へ留学するため世界各国で行われる大学統一入試「STIC」攻略という巨大な舞台に挑むが…
作品情報
公開日
2018年9月22日
上映時間
130分
原題
Bad Genius
監督・キャスト
監督:ナタウット・プーンピリア
主要キャスト: チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、チャーノン・サンティナトーンクン、イッサヤー・ホースワン、ティーラドン・スパパンピンヨー、タネート・ワラークンヌクロ
予告編
公式サイト
https://www.maxam.jp/badgenius/
感想レビュー

カンニングのアイデアに一気に引き込まれた。コレを考えた人は天才ではないか。荒唐無稽にも思える複雑な手法だが、小気味良いリズムの編集で理解できてしまうから不思議だ。
女優や俳優が説得力をもたらしているのだが、特に100名のオーディションを勝ち抜いたという主演のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(発音が難問!)が素晴らしい。まさにクール・ビューティ! 汗ばむ額、必死な瞳、スマホを操作する指先さえ切迫感に満ちている。
ただ、彼らが大人びているせいか、高校生の奮闘というよりも大学生くらいに見えてしまい、終盤の展開には少し戸惑ってしまった。しかし、これは10代の物語だ。浅はかに見えた判断も、年齢経験を思えば無理もない。
そもそも不正行為なのだけれど、彼らがどうしてカンニングに頼らざるを得なかったのか。それは、タイの物価が日本の3分の1程度だと知ると大いに納得できる。劇中に登場する200万バーツという金額は、日本円に換算すると700万円ほど(2021年2月現在)。単純にこの3倍の貨幣価値だとして、日本であれば2000万円超! 大人にとっても大金だ。ましてや10代であれば途方もない金額。本作の背景には、タイの経済事情や家庭格差や学歴社会がある。生まれた環境で将来も決まりがちな現実も見えてくる。教育は平等ではないというタイの風景は、今や日本においても他人事ではない。
まとめ

アクションスパイ風味を目指したというナタウット・プーンピリア監督の演出も見事だ。実話ベースからのストーリーの広げ方が、とても良い。親子問題や友情や恋と盛り沢山なのに、130分の長さも感じさせない。『スラムドッグ$ミリオネア』や『オーシャンズ11』を思い出す方も多いだろう。高校生たちの夢と現実。そして、親の思いも痛いほどに。終始、両目ガン開きで見入ってしまった。このタイ映画は大正解である。
(文:キタコ)
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