新型コロナの影響で配信作品が多い年になったが、各作品が時代性を色濃く反映している趣もあり、個人的には非常に興味深い回になっているのではないかと思う。アカデミー賞発表前に多くの候補作品を家にいながらにして観れるのは我々日本の一般人にとっては嬉しいことだと思うので、今年限りかもしれないこの機会を楽しんでみるのもありだろう。
作品賞予想

未視聴なのでゴールデングローブ賞の結果と作品の概要からの予想。広大なアメリカの大地に還るような内容でありながら現代社会に密接に接続された作品だと考えている。
監督賞予想

作品賞と合わせて。最近の潮流的にも中国出身の女性監督が取る意味は大きいと思う。
よくよく調べると『Mank/マンク』のデビッド・フィンチャーがまだアカデミー賞は取っていないということに今さら気づき驚いた。「今回のであげるなら前の作品でよかった。この人はまだまだ賞が取れる作品を作るだろう」みたいなよくあるパターンになりそう。
主演男優賞予想
ここであげないともう無いから、亡くなってしまった人には勝てない。そして賞に値する熱演だった。言われなかったらワカンダの王様と同じ人とは気づかないかもしれない。
『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』のリズ・アーメッドや、未視聴ながら『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスは、それぞれ特定の障害・症状の当事者を演じ、共に主観を体験させる趣の強い作品であることから個人的にはかなり気になっている。
主演女優賞予想

概要や予告編を見る限り主人公と内面を見つめ続ける映画に思える。作品賞を取るのであれば、同時に主演女優賞にも選びたくなるのではないだろうか。
助演男優賞予想
『シカゴ7裁判』のサシャ・バロン・コーエンや、ゴールデングローブ賞を取った『Judas and the Black Messiah』のダニエル・カルーヤが本命なのかなとは思う。しかし個人的には『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』で英語と手話のバイリンガル(?)ならではの役柄を印象的に演じきったポール・レイシーに取ってほしいと思った。
助演女優賞予想
『ミナリ』のおばあちゃんのインパクトと微笑ましさは印象深い。物語上での変化も見事に体現していた。英国アカデミー賞も受賞したとのことで、この流れで取ってほしい。
脚色賞予想
社会派のノンフィクションをドラマに脚色したという意味で、もともと最注目の『ノマドランド』が本命なのかなと思うが、『あの夜、マイアミで』の原作・脚本であるケンプ・パワーズの環境を限定した上での想像力と構成力には脚本・脚色というジャンルの面白さが詰まっていた気がする。
脚本賞予想

『シカゴ7裁判』で描かれたデモの指導者たちは自他を問わぬ暴力性に翻弄されていた。デモという象徴的な行為の何たるかに関しては、もちろんすっぱり答えが出る問題ではないが、現実社会ではジョージ・フロイド氏の死後、抗議活動が盛んに行われ、結果的にとは言え一部では暴力的な状況が生じ、フロイド氏の弟が沈静化を訴えたことも記憶に新しい。時代的に響くメッセージ性をどこかで評価してほしいという自分の願望として脚本賞に挙げる。
次の音響賞でも触れる『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』は、製作開始当初は実在のバンドのドキュメンタリーの予定だったところを途中から鮮烈なコンセプトを持ったドラマに変更したという経緯があり、個人的には次に気になる作品だ。
音響賞予想
突然難聴になることの恐怖をまざまざと体験させてくれた。映画の映像がこの先さらに進化するには今少し時間がかかりそうだが、音響は工夫と技術でものすごく主観的・立体的に感じさせることができるのだと改めて感じた。
まとめ
最有力と言われる『ノマドランド』、韓国系の監督と俳優による『ミナリ』は、共にアメリカという国の原初の精神に強く接続されていると思われる。一方で『Judas and the Black Messiah』『シカゴ7裁判』『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』などの作品はアフリカ系アメリカ人や人権に関わるアメリカの負の側面との歴史的な戦いを反映した映画と言えるだろう。
そう考えると今年のアカデミー賞は、新型コロナで揺らぐ社会と、その間に起こったジョージ・フロイド氏の死亡事件に端を発したBLM運動の盛り上がり……皆が不安を抱える中で、今一度アメリカという国を見つめ直したいという想いが顕れているように自分には思えた。