第93回アカデミー賞予想~村松~

今年は通年の流れとは違い4月26日の発表となるアカデミー賞。

新型コロナウィルスの感染拡大の影響によって映画館の機能が事実上停止したことで、ハリウッドメジャーの作品が軒並み公開延期。結果として少し地味な印象を感じる並びなりました。しかし、その一方で、様々な形でアメリカを描いた作品が並んだとも言えます。「ノマドランド」「ミナリ」は現代のフロンティアスピリットの映画と言えますし、「Mank」はアメリカ映画オールタイムベスト1の「市民ケーン」の裏側を描いています。「シカゴ7裁判」はアメリカにとっては避けては通れないベトナム戦争を、「Judas and the Black Messiah」は人種問題を描いています。また同じ映画館事情から配信系の作品の比重がさらに増しています。

作品賞予想

「ノマドランド」

村松の映画に一言第6話「ノマドランド」

前哨戦の状況から見ても、「ノマドランド」が圧倒的に優勢と言えれるでしょう。この映画の真価を感じるにはアメリカ人でないといけないのだろうなとも思いますが、その分、アメリカ国内の評価は増すばかり。ちょっと対抗馬が浮かばない強さです。

監督賞予想

「ノマドランド」クロエ・ジャオ監督

(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

こちらも、前哨戦から圧倒的な強さを見せている「ノマドランド」クロエ・ジャオ監督が圧倒的に優勢。昨年は「パラサイト-半地下の家族-」の韓国人監督ポン・ジュノが受賞しましたが、今年は女性監督としては2人目、中国出身者としては初となるクロエ・ジャオ監督がかなり優勢です。

主演男優賞予想

「マ・レイニーのブラックボトム」

Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

「マ・レイニーのブラックボトム」のチャドウィック・ボーズマンが優勢。時として非常にロマンティックなチョイスをすることがあるアカデミー賞。今回は43歳の若さで早逝した、チャドウィック・ボーズマンに票が集まるかと思います。「ダークナイト」の時のヒース・レジャーを思わせる展開です。

主演女優賞予想

「ノマドランド」

(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ここは素直に考えれば「ノマドランド」のフランシス・マクドーマンドと言いたいところなのですが、これで取ると3度目。前回の受賞が2017年の「スリー・ビルボード」だと言うことが少し気になります。対抗は作品を見れていないのですが高評価の「プロミシング・ヤング・ウーマン」のキャリー・マリガンだと思われます。

助演男優賞予想

「ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア」

こちらも見れていないのですが、前哨戦の状況から本命と思われるは「ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア」のダニエル・カールヤ。BLM運動の流れが未だ衰えないアメリカの社会的な実情を考えても優勢でしょう。対抗馬はそろそろ取ってもおかしくなさそうな「シカゴ7裁判」のサーシャ・バロン・コーエン。どちらが取っても社会的なメッセージの強い結果と言えるでしょう。

助演女優賞予想

「ミナリ」

これは「ミナリ」のユン・ヨジョンが圧倒的に優勢。昨年の「パラサイト-半地下の家族-」に続く韓国語映画の快挙となるなるか?「ヒルビリー・エレジー郷愁の哀歌」のグレン・クローズにいい加減アカデミー賞を贈ってあげたい気持ちもありますが…。

脚本賞予想

「ミナリ」

「プロミシング・ヤング・ウーマン」と「シカゴ7裁判」の三つ巴という感じですが、ここは「ミナリ」のリー・アイザック・チョンを選びました。作品賞、監督賞で「ノマドランド」を選んだ人たちがバランスを取るという意味でも「ミナリ」優勢です。

脚色賞予想

「ノマドランド」

(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

これは原作があるものを映画に合わせた脚本にしたものが対象ですが、基本的に「ノマドランド」が中心のアカデミー賞になると思いますので、こちらも「ノマドランド」です。「続・ボラット栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画」が取ったら痛快ですが。

長編アニメーション賞予想

「ソウルフル・ワールド」

アカデミー賞にとにかく強いピクサーの「ソウルフル・ワールド」が優勢ですが、「ウルフ・ウォーカー」も強そうです。

国際長編映画賞予想

「Another Round」

デンマークの作品が優勢ですが、この部門は混戦気味です。昨年の東京国際映画祭で上映された「皮膚を売った男」にもチャンスありです。

撮影賞予想

「ノマドランド」

(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

実は「ノマドランド」が最も優勢なのはこの部門なのではないかと思っています。対抗馬はモノクロの美しさを感じさせた「Mank」ですね。

衣装デザイン賞予想

「マ・レイニーのブラックボトム」

Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

時代性を感じさせる作品が強いこの部門では「マ・レイニーのブラックボトム」が優勢、対抗馬「Mank」かと思われます。

編集賞予想

「シカゴ7裁判」

Netflix映画『シカゴ7裁判』独占配信中

群像劇をダイナミックにさばいた「シカゴ7裁判」が強いかと思います。比較的エンタメ色の強い作品が結果を出している部門でもあります。対抗馬はやはり「ノマドランド」ではないかと思います。

メイクアップ&ヘアスタイリング賞予想

「マ・レイニーのブラックボトム」

Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

今回はあまり”変身”がなかった中で「マ・レイニーのブラックボトム」が強いのではないでしょうか?

音響賞予想

「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」

今年から録音部門と統合されました。“音”にこだわったという点は本作が強いですね。アニメーション映画の「ソウルフル・ワールド」が取れば快挙です。

作曲賞予想

「ソウルフル・ワールド」

ここは「ソウルフル・ワールド」が強さを発揮するのではないかと思います。

歌曲賞予想

「シカゴ7裁判」

Netflix映画『シカゴ7裁判』独占配信中

実はメッセージ性の強い作品が選ばれることある「歌曲賞」。「シカゴ7裁判」が取ればひと味違うアカデミー賞になることでしょう。

美術賞予想

「Mank」

Netflix映画『Mank/マンク』独占配信中

やはり時代モノが強いなかで「Mank」が優勢、同じく「マ・レイニーのブラックボトム」「この茫漠たる荒野で」も。唯一のSF作品である「TENETテネット」がどうなるか?ですね。

視覚効果賞予想

「TENETテネット」

これは「TENETテネット」でしょう。本来ならもう少しメイン所にも絡んでもおかしくなかったクリストファー・ノーラン監督作品が強さを見せつけるでしょう。

長編ドキュメンタリー賞予想

「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」

NETFLIX配信作品が2作品あり本作と「ハンディキャップ・キャンプ:障がい者の夜明け」がエントリー、対抗馬と目されている「タイム」がAmazon配信と言うことで、時代を感じさせるドキュメンタリーが並びました。

短編ドキュメンタリー賞予想

「ラターシャに捧ぐ~記憶で綴る15年の生涯~」

1992年のロサンゼルス暴動を扱った作品。BLM運動の流れを考えるとやり、このテーマは圧倒的に強いのではないでしょうか?こちらもNETFLIX配信作品。

短編映画賞予想

「白い自転車」

これは、ハリウッドがユダヤ社会であることを考えてイスラエル製の作品をチョイスしました。

短編アニメーション賞予想

「愛しているって言っておくね」

Netflix映画『愛してるって言っておくね』独占配信中

なんと、この部門でもNETFLIXです。「夢追いウサギ」はDisney+で配信。今年のアカデミー賞は配信のアカデミー賞ですね。

まとめ

最多ノミネートは「Mank」です。在りし日のハリウッドとハリウッド映画、アメリカ映画オールタイムベストワン「市民ケーン」の裏側を描くというのはハリウッドの映画人が好きなテーマでもあります。とは言え、郷愁がストロングポイントになるほど今のハリウッドとアメリカは穏やかではなく、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて改めてアメリカ社会、人々の社会を見直す契機となりました。そんな中で人生の在り方を描いた「ノマドランド」が優勢だと思います。女性監督、女性主人公と言うことも投票の際には大きな要素になると思われます。ただ、昨年は「パラサイト-半地下の家族-」が大旋風を巻き起こしましたので、大きな波乱があっても楽しいですね。

(文:村松健太郎)

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