時を超えた再会に想いを馳せる『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』

光州事件と呼ばれる歴史的な事件をモチーフにしながら、観客を飽きさせることのないドラマありアクションありのエンターテイメントに仕上げた傑作。
映画のその後、現実世界での後日談についても触れ、歴史と現在が接続される感覚を共有したいと思います。

あらすじ

1980年5月、軍政が続いていた韓国では民主化を求めるデモが全国各地で起こっていた。しかしタクシー運転手のマンソプ(ソン・ガンホ)に、そんなものは関係ない。男やもめで一人娘を育てる貧しい運転手のマンソプにとって、デモ隊は道を塞いで仕事のじゃまをする集団でしかなかった。そんな中、マンソプは高額を払って光州へ行きたがっている客の噂を聞きつけ仕事にありつく。ピーターと名乗るドイツ人の乗客は連絡が途絶えた光州を取材しようとする記者だった。戒厳令による軍の検問をくぐり抜けながら光州にたどり着いたマンソプたちは、のちに光州事件と呼ばれるできごとを目の当たりにし、事態に巻き込まれていく――。

作品情報

(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.

公開日
2017年8月2日(韓国公開)
2018年4月21日(日本公開)

上映時間
137分

監督・キャスト
監督:チャン・フン
主要キャスト: ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル

予告編

公式サイト
映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』公式サイト

感想レビュー

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歴史上の事件を扱った映画というと、どんなイメージを抱くだろうか。好む人も少なくはないとは思うが、人によっては、重い、暗い、まじめすぎて楽しくない、というようなイメージから敬遠する人もいるかもしれない。しかしこの映画に関しては安心してほしい。歴史的な重い事件を描きながらも、同時に非常に満足度の高い娯楽作品としても成立している。

ソン・ガンホ演じるタクシー運転手のマンソプはとにかくコミカルでめげない。ニコニコ、ズケズケと生命力の高そうな、隣人にいたら面倒くさそうな人間味のあるキャラクターで、映画の大部分はその彼の持ち前の生命力によって彩られてると言っても良い。やはりソン・ガンホは顔面力が違う。

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一方でトーマス・クレッチマン演じるドイツ人記者ピーターは、異邦の事件を調査する1980年の海外特派員としてしっかり演出されていて、東京のホテルラウンジでの記者同士の会談や、韓国の喫茶店での地元記者との密談のシーンなどはシリアスなカッコ良さがある。そんな同じ映画の登場人物なのか疑わしいくらいちぐはぐな二人の光州への旅は、その先に何が待ち受けているか予感していても、なんとも面白おかしいものだ。

光州に入ればどんどんシリアスな展開になっていくのは当然だが、マンソプの人間的な心境のゆらぎや決意は美しいし、家族愛や人間愛、そして韓国の人々の生命力を感じさせるドラマがたっぷり描かれている。また人命救助のためのアクションシーンは息を呑むし、もうリアリティなんていいでしょと言わんばかりの熱量を感じるサービス満点のカーチェイスシーンも見どころだ。

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ドイツ人記者のモデルとなったユルゲン・ヒンツペーター(Jürgen Hinzpeter)は、この映画が公開される前年の2016年1月に亡くなっている。映画を最後までご覧になれば分かるように、彼は彼を助けてくれたタクシー運転手との再会をずっと願っていたが、それは叶わなかった。映画と同様に暖かいけど少しだけ寂しい結末となった。

しかし現実ではちょっとだけ続きがあったようだ。映画が韓国国内で大ヒットしたことで、実際にヒンツペーターを乗せたタクシー運転手の息子キム・スンピル氏が現れ、彼の父親とヒンツペーターの写真をメディアに公開したのだ。これによって劇中では偽名とされていた”キム・サボク”がタクシー運転手の本名だったと分かり、またサボクが光州事件のあと1984年に肝臓癌で亡くなっていた事実が明らかになった。

ヒンツペーターは生前、光州での埋葬を望んだこともあったらしく、埋葬自体は叶わなかったが、光州の墓地にヒンツペーター記念庭園と呼ばれる区画が作られ、そこに彼の爪や髪の毛の一部が収められているらしい。キム・サボクの存在が明らかになったことで、彼の墓をその隣に移し、死後の再会を叶えようという動きもあったようだ。筆者の調査能力と言語能力の限界により、その後それが実現したのかは確認が取れていないが、あの世で再開できていることを願わずにはいられない。

映画の評価
ハラハラワクワク
(4.0)
ドキドキ
(4.0)
考えさせられる
(4.5)
笑える
(4.5)
泣ける
(4.5)
総合評価
(5.0)

まとめ

(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.

光州事件と聞いて果たしてどれほどの人が事件のあらましを語れるだろうか。恥ずかしながら筆者は、世界史の教科書で見たことがあるかも程度の認識しか持っていなかった。しかし映画を期に学び直すというのは映画の一つの効能であり、『タクシー運転手』は歴史と現在を接続しながらも観客を引き込み夢中にさせて楽しませてくれる、ものすごくお得な映画だといえる。
あなたもこの映画を見てヒンツペーター氏とサボク氏のあの世での再会に想いを馳せてみてはどうだろうか。

(文:フレームホッパー)

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